2010年8月25日水曜日

ブリキの太鼓

自分ばかり書いて…という気もするのですが、まあいいだろうということで。
ようやく『ブリキの太鼓』を読み終えました。『ヴァインランド』『賜物』と、河出の全集から3作読破しましたが、その中でもボリューム感は断トツで、疲れたし、「もう読みたくない」という気持ちに駆られること幾度、という感じではありながら、やはり読まれるべき作品だな、と。
戦争を扱った作品ですが、目を逸らしたいけれども、目を向けるべき、そしてどこか抗いがたい魅力がある、というまさに戦争に対して人が抱く態度をそのまま感じたとも言えるでしょう。そして本としては長すぎるけど、戦争を一人の作家が描くにはこれでも短すぎるかもしれない、などと思いながら読みました。
グラスの調理法がまた見事で、このグロテスクさと、少年のクールさ、しかし読んでいてこのクールさがかなり客観性を欠いていると気づくわけですが、そうしたものが不気味ながら魅力的です。モダニズム(意識の流れ)やドイツの伝統(教養主義)をちゃかすその態度もまた戦後的です。そうした時代の記録、文学史の記念碑としても価値があるでしょう。

まあ、体力があるうちに読んでおくべき本のひとつではないかと。それにしても、池内さんのこの訳ほか、ここ最近、優れた翻訳家が、それでも必死にならないと太刀打ちできないような力作の翻訳が続いていて、読者としては大変だと思いつつも嬉しい限りです。もっと若くて、先達に負けない訳者がどんどん出てくるといいですね。
(と、ここで一つ宣伝を。その若手翻訳家として大活躍中のFさんから今回も「本郷通り、」に原稿を頂きました。ファンの皆様はお楽しみに。)

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