2010年12月10日金曜日

本郷市史 2010-2011 (2)

序言(続き)

 コジは来年が波乱の年になるのではないかと危ぶんでいた。この年の夏、セラピオン兄弟(コジの仲間たちの通称)は一人の女を仲間に迎え入れた。あらゆる謎を免れているかと思えるほどに開放的で、しかしその過去のすべてが謎に包まれている女、ソーニャ。彼女を仲間に入れたとき、友としては正しいことをしたが、政治家としては道を誤ったのだ、とコジは思った。

 コジは政治家としての気質がすっかり身についてしまっていたから、ソーニャを迎え入れた時点で、バルドスに依頼してソーニャの来歴を秘密裏に調査させた。その結果、ソーニャの過去の一部が明らかになった。彼女は、本郷から市一つはさんで50キロほど離れたところに位置する町、マギラにある劇場の花形の踊り子だった。劇場の経営者であるクライトンは、郡全体に影響力を持つとされる黒社会のドンで、マギラの実質的な支配者だった。クライトンのソーニャに寄せる関心は、単なる興行主としてのそれを越えたものらしかった。

 そのソーニャがなぜかマギラを逃げ出し、本郷に流れ着いたのである。いずれクライトンはソーニャがこの町にいることに気づくだろう、あるいはすでに気づいているのかもしれない。クライトンがそれを黙って見過ごすとは思えなかった。
 また市内にも、ジャンゴの一件が引き金となってソーニャに関して良からぬ噂をする者がいた。それは主に反コジを標榜する連中だった。来年の市長選を前に、コジは反対派に一つの弱みを与えてしまったのだ。相手の策謀に、一挙一動に目を光らせなければならなかった。

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