2010年12月10日金曜日

本郷市史 2010-2011 (1)

序言

 本郷市は決して大きな町ではないが、郡の最高学府を有し、文化の中心地として栄えている。町を東西に二分する本郷通りに、ほとんどすべての機関が集まっている。通りの中心には大学がある。広い敷地のなかに瀟洒なレンガ造りの建物が並び、それらの建物を統べるかのように巨大な塔が中央の講堂広場にそびえ立っている。文献学者として世界的に有名なパーヴェル・オーセニイが現在学長を務めている。大学の向かいには市政館がある。現在の市長は三年前の市長選で初めて当選したコジ・カーターである。異例の若さで市長に就任したが、すでに市政の重鎮としての貫禄を示している。市政館の東、百メートルほど先に保安官事務所がある。本郷市は郡警察の管轄化に置かれているが、町の実質的な警察任務は保安官が担っている。保安官を務めるのはバルドス・トモンスキー、保安官補はショーン・ベーリクとイッペーオ・トゥリーダマーの二人である。この三人はかつて共同で探偵事務所を経営しており、そのときの実績を買われて現在の職に任命された。市政館の隣には本郷新聞社の事務所がある。現在主筆を務めるのはケイシー・ツボノヴィッチ。彼は小説家・翻訳家としての顔も持っている。

市の政治と文化を担う彼らは、みな本郷大学の出身者で、同じ研究室で学んだ仲間たちである。本郷市のような小さい町を治めるのに、彼らの親密さは都合が良かった。市政は行き届き、治安も良く、人びとには活気があった。来年に市長選を控えていたが、コジに寄せる市民の信頼は厚く、再選は確実視されていた。

こうして2010年もつつがなく暮れていくかに思われた。だが、コジの胸には一つの暗い予感があった。

0 件のコメント:

コメントを投稿