東京のどこかでひっそりと作られ、配られ、そして読まれたり読まれずに捨てられたりする、そんな小さな文芸同人雑誌についてのあれこれ。 「、」は、終止符とは違い、継続を前提としている。相米慎二の『ションベン・ライダー』のラストを思い出そう。「本郷通り、」は流れてやまない本郷通りの姿を表している。ネフスキー大通りでも、シャンゼリゼ大通りでもないが、そこに身を置けば、さまざまな声が聞こえてくるはずだ。われらが本郷通りの、一瞬一瞬のきらめき、かなしみを映し出す、ポリフォニックなブログ。
2010年8月18日水曜日
晩夏のセラピオン兄弟 2
…片〇氏は静かに語り終えた。聞き手たちは、「臆病な僕の取った行動」の余韻に、しばらく浸っていた。バルドスが沈黙を破った。その眼には涙が浮かんでいた。
「ひぐらしが鳴きはじめたよ。編集室は閉めて、続きはチムニーでしよう」
チムニーは『本郷通り、』編集部の行きつけの居酒屋である。短い煙突を懸命に上空に伸ばしている、レンガ造りの古い小さな建物だ。夕暮れ時の外観は陰気だが、中はランプが煌々と燃えていて明るかった。まだ早い時間だから客は入りは少なかったが、早くも酔いのまわった学生の一団の話し声が響き、奥のカウンター席では黒いドレスの女が一人泣いていた。
テーブルを囲んだ五人は、新たなセラピオン兄弟の誕生を祝して乾杯した。そのとき、間が悪くもバルドスの携帯が鳴った。トミー・ヌードルスからだった。席を外したバルドスは、戻ってくると言った。
「すまん、仕事が入った。トミーからだ。この事件にはもうお手上げだよ。」その顔はすでに探偵のそれになっていた。
「俺も行こうか?」相棒のショーン・カワギシエフスキーが言った。
「いや、今回は地下にもぐるわけじゃないから大丈夫だ。それにおかげで俺もマンホールのはずし方は覚えたから。これからのみんなの話、あとで全部ブログにのせてくれ、頼むよ」そう言い残して、バルドスは夜の本郷通りへと出て行った。
残る語り部は三人だった。カワギシエフスキーとケイシー・ツボノヴィッチとイッペイ。語り終えた片〇がカワギシエフスキーを指名したので、彼が次に話すことになった。彼の頭にはすでに語るべき物語が浮かんでいるらしく、表情には活気がみなぎっていた。今まさに語り始めようとした瞬間、カワギシエフスキーの携帯にメールが入った。バルドスからだった。
「みなの名前勝手に作った。気に入らないなら変更せよ」
バルドスの事件解決を祈って再び乾杯した後、カワギシエフスキーは歌うように語り始めた。
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>残る語り部は三人だった。カワギシエフスキーとケイシー・ツボノヴィッチとイッペイ。
返信削除いやいや、この枠の中でバルドス氏にも語っていただかなくては。