編集会議が終わった後も、我々はそのまま編集室に居残って、とりとめもない雑談を交わしていた。お互い気心の知れた仲だし、事務的な仕事の打ち合わせを終えて、みなすっかりくつろいだ気分になっていた。
私(バルドス)は、いつものように思いつきでしゃべっていたが、ふっとその時思いついたままに次のような提案をした。
「僕らはみんな何らかの形で文芸に携わって生きていこうとしている連中だ。普通の人よりもよく本を読んでいるし、並はずれた才能はないけど、並み以上の想像力と感受性は持っているつもりでいる。そこでだ、よくある趣向だけど、一人ずつ順番に短い物語を語っていくというのはどうだい。何の統一感がないのもつまらないから、何かテーマを決めて。…今は八月、残暑は厳しいが暦の上ではもう秋なんだね。テーマは『晩夏』でいいや。季節感を大切にしよう。それをテーマにロマンスでも怪談話でも何でもいいから、自分の知っている話、あるいは自分の創作した話を順番に語っていくんだ。どうだい?」
一同は、顔色をうかがうように互いに見合わせていたが、みな内心乗り気になっていることは隠せなかった。「それで誰から話すんだい?」という声が上がった。バルドスが即座に答えた。
「片〇くんからぜひ頼むよ。ひとつ、面白くて味のある話を聞かせてくれ。」
幾度か言葉のやり取りがあった後、片〇氏はしばらく考えている様子だったが、やがておもむろに語り始めた。
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