池部良が死んでしまった。小林桂樹も死に、池内淳子も死んだ。映画黄金期の俳優女優が次々に亡くなっていく。
池部良は戦前に島津保次郎の映画でデビューした、まぎれもない大スターである。デビュー後すぐに召集され、南方のハルマヘラ島で中隊長として終戦を迎えた。帰国後映画界に復帰し、31歳のとき『青い山脈』(今井正)に主演、16歳の少年を見事に演じてみせた。高校生を違和感なく演じられる30男は、古今東西を通じて池部良くらいしかいないのではないか。
その後も『暁の脱走』(谷口千吉)、『破戒』(木下惠介)、『現代人』(渋谷実)といった名作に主演し、スターとしての地位を不動のものにした。また中年期を迎えてからは、『乾いた花』(篠田正浩)で初のやくざ役に挑み、ニヒルなインテリやくざを鮮烈に演じてみせた。当たり役となった『昭和残侠伝』(マキノ雅弘)シリーズの風間重吉役も忘れ難い。
エッセイストとしての活躍もすばらしい。本物の文才の持ち主だった。父親(高名な挿絵画家、池部鈞。岡本太郎は従兄にあたる)との思い出をつづった『そよ風ときにはつむじ風』、映画人との交流をつづった『心残りは…』、過酷な戦場体験を描いた『ハルマヘラ・メモリー』などが代表作。いずれも歯切れのいい江戸弁で書かれており、池部の文体へのこだわりをうかがわせるものだ。
もう四年近くも前になるが、池袋の新文芸坐で池部特集をやったとき、池部本人のトークショーがあって、ぼくはこの目で往年の大スターを見たのだった。
舞台に現れたとき、満席の会場が水を打ったように静まり返った。90歳になろうとするそのおじいちゃんは、今でも昔の美貌をとどめていて、背筋はピンと伸び、長身痩躯(身長はおそらく180センチ以上)、スタイルは抜群で、水際立った存在感を放っていた。『昭和残侠伝』の頃よりも痩せていて、原節子に「もやしちゃん」とからかわれていた若い頃を思わせる体つきだった。
話術も抜群で、エッセイそのままの鮮やかな語りで会場を魅了した。名画座通いをしていると、トークショーなどで俳優や女優を直接目にする機会もあるけれど、おじいちゃんの池部良ほどオーラを感じさせた人はいない。
「これがスターなんだ」と、興奮しながら思ったことを今でもよく覚えている。
いずれ追悼上映会をやろう。
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